おいしいものの、その先へ。|食材探究コラム
小さな干菓子を舌にのせると、すっとほどけるような口どけ。和三盆には、華やかな甘さというより、静かな余韻があります。白く繊細なその姿からは想像しにくいのですが、原料は力強く育つサトウキビ。そこから上品な砂糖が生まれるまでには、人の手による丁寧な仕事が重ねられています。
01|温暖な四国で育つサトウキビ
和三盆糖の産地として知られるのは、香川県と徳島県。伝統的には「竹糖」と呼ばれるサトウキビが使われます。温暖な気候と、土地に根付いた製糖の技術が、その味わいを育んできました。
サトウキビと聞くと南の島を思い浮かべがちですが、四国にも長い砂糖造りの歴史があります。和三盆は、土地の条件に合わせて育った日本独自の食文化なのです。
四国の竹糖は、背丈や糖の成分などに独自の特徴を持つサトウキビです。収穫した茎から糖を取り出すまでには、天候やその年の出来にも左右されます。一粒の砂糖を作るために、まず畑で植物を育てる時間があることを忘れたくありません。
02|白下糖から始まる、砂糖の手仕事
収穫したサトウキビを搾り、その汁を煮詰めると、糖の結晶と蜜を含む「白下糖」ができます。ここから先が、和三盆ならではの繊細な工程です。
砂糖のかたまりに少量の水を加え、手で練って蜜を抜く「研ぎ」を繰り返します。力加減や水の量、湿度を見極める職人の感覚が、仕上がりを左右します。
白下糖は、砂糖の結晶と糖蜜が混ざった状態です。そこから蜜を少しずつ取り除くことで色や舌触りが変わっていきます。工程のなかには、機械でできる部分と、人の感覚が大切な部分があり、その違いが伝統製法の見どころです。
03|「和三盆」という名前に込められたもの
和三盆の名前は、研ぎを三度行ったことに由来すると伝えられています。ただし、現在の製法で必ず三回という意味ではなく、造り手や工程によって回数は異なります。
一見シンプルな白い粉に、何度も手をかける。その繰り返しによって、結晶が細かく、舌触りのよい砂糖へと変わっていきます。
「三盆」は、三度という数だけに目を奪われがちですが、重要なのは研ぐ工程を重ねて口どけを整えること。手につく水の量や練り方は、気温や状態で調整されます。毎回同じように仕上げるためには、ただ手順を覚えるだけでは足りません。
04|和菓子に映える、やさしい甘さ
和三盆糖は、きめ細かな口当たりと控えめな風味が持ち味。季節の花や葉をかたどる干菓子は、茶席を彩る小さな工芸品のようです。
抹茶のほろ苦さと合わせたとき、和三盆の甘さはいっそう引き立ちます。味だけではなく、色合いや形、食べる場の空気までを楽しむ文化が、その価値を支えてきました。
干菓子が季節の植物や祝いごとの形で作られるのも、和三盆が和菓子文化と深く結びついているからです。味わう前に眺めて楽しむ時間があり、口に含んでからゆっくり消えていく時間がある。ひと粒の中に、茶の湯の美意識も感じられます。
05|ひと粒を、ゆっくり味わってみる
和三盆を楽しむなら、まずは何も加えず少量を口に含んでみてください。すぐに噛まず、ほどける感覚や後味のやわらかさを確かめてみる。
紅茶やほうじ茶にほんの少し添えるのもおすすめです。甘みが主役になるのではなく、香りの余韻を静かに引き立ててくれます。
市販の「和三盆を使ったお菓子」には、和三盆糖以外の糖類が使われる商品もあります。原材料表示を見て、純粋な和三盆糖と和三盆入り菓子の違いを知るのも一つの楽しみ。食材の個性を確かめたいときほど、表示がよい案内役になります。
結び|おいしいものの、その先へ。
ひと粒の和三盆には、サトウキビ畑の陽ざしと、職人の指先に受け継がれた感覚があります。消えていくような口どけの向こうに、消えてほしくない技がある。そのことを思うと、小さな干菓子がいっそう愛おしく感じられます。


